第29回ヨコハマ映画祭
今、日本映画が元気です。 |
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▲腑抜けども、悲しみの愛を見せろ ▲しゃべれども しゃべれども ▲それでもボクはやってない |
「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」(112分) | |
断然面白い。これはずば抜けて鋭い人間観照に裏打ちされた作品である。「あたしは絶対人とは違う。特別な人間なんだ!」女優を目指して山間の村を飛び出した自意識過剰な勘違い女、和合スミカ(佐藤江梨子)。両親の不慮の交通事故死で田舎に舞い戻ったスミカを軸に、妹、兄―実は義兄(永瀬正敏)、兄嫁(永作博美)の凄絶なバトルが繰りひろげられる。冒頭から思わぬ展開の連続に唖然としながら、スミカとその家族のもつれた心の糸を読み解くことに釘付けとされてしまう。静かだが確実に映画の奥で感情が爆発している。こんな映画が突然飛び出してくるから日本映画界はまだまだ可能性を豊かに秘めている。監督はCM界の鬼才・吉田大八。撮影は「下妻物語」などの阿藤正一。最強のタッグで斬新な演出、絵作りを示した。そのありあまる才能はまだホンの一端を示したにすぎないだろう。必見の傑作に腰を抜かさぬようご注意あれ! |
(ベストテン4位 新人監督賞、撮影賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞) |
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「しゃべれども しゃべれども」(109分) | |
近年忘れかけていた日本映画お得意の笑って泣ける人情モノが爽やかに復活した。今昔亭三つ葉(国分太一)は、師匠(伊東四朗)の古典落語が大好きな"二つ目"。思うように腕が上がらず悩む三つ葉のもとに「話し方を教えて」とワケありの三人が集まってくる。この三人それぞれの個性が際立っており、三つ葉をさらに悩ますが、噺の世界同様、隅田川沿いの下町情緒たっぷりな背景に人情味あふれる話し方教室が展開し、本当の気持ちを言葉に乗せられないぶきっちょな生き様に"芸"と"恋"の行く末が絡み合ってくる。破格の面白さ感動にあふれる原作に敬意をはらい、映画ならではの構成に換骨奪胎した脚本、奥寺佐渡子の腕の冴え!テンポに富んだ若々しい口跡で「火焔太鼓」にチャレンジした国分!名人芸とはかくあらん、玄人はだしの高座姿を演じて何食わぬ顔の伊東四朗がスゴい!何よりもさりげない市井の話と心得ながら"粋と芸"の真骨頂を描ききった当代きっての職人監督、平山秀幸に大拍手を贈りたい。 |
(ベストテン3位 脚本賞) 監督=平山秀幸 原作=佐藤多佳子 脚本=奥寺佐渡子 撮影=藤澤順一 出演=国分太一、香里奈、森永悠希、松重豊、八千草薫、伊東四朗 |
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「それでもボクはやってない」(143分) | |
待ちかねたぞ、周防正行! 11年も待たせて出来が悪かったら勘弁しないぞ!と力んで観に行ったら、そんなこちらの愚かな思惑をあざ笑うかのような大傑作だった。おそらく、ここ数年の日本映画の最良の一作だろう。恐るべし、周防正行!と呟くのみ。増加する痴漢犯罪は許しがたい。だがいつ冤罪に巻き込まれるかも分からないという恐怖は、男性なら誰しも持つだろう。その深刻な社会問題を上質なエンターテイメントに仕立てあげるという離れ業。正に天才の仕事だ。2位以下を2倍の票数で引き離してブッチ切ったのも当然だろう。加瀬亮以下の俳優陣も入魂の演技で存在感を示す。息つく暇もないスリリングな展開に時間を忘れ、翻弄されているうちに、ジワジワと恐怖感が増してくる。しかし注意深く観ていると、周防監督の人間を見据える目のあたたかさが浮かびあがる。これ以上ないほど練りあげられた脚本が見事だ。真に観なければならない映画とは、この作品のことだと断言しよう。今度は11年も待てないぞ、周防さん!というのがすべての映画ファンの意思と希望と願望だ。 |
(作品賞、監督賞、主演男優賞) 監督・脚本=周防正行 撮影=栢野直樹 照明=長田達也 音楽=周防義和 出演=加瀬亮、瀬戸朝香、山本耕司、もたいまさこ、役所広司 |
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