第28回ヨコハマ映画祭
今、日本映画が熱い! |
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▲フラガール ▲ヨコハマメリー ▲ゆれる |
「フラガール」(120分) | |
これは寂れゆくまちを救おうと立ち上がった女たちの物語である。昭和40年、「常磐ハワイアンセンター」立ち上げの“プロジェクトとして、炭坑町の盛衰史に民衆のひたむきな生きざまと哀感を重ね見事な出来栄えとなった。最初は「ケツ振れねえ」「ヘソ丸見え」と逃げ腰だった田舎娘たちだが、フラダンスを生きるうえでの表現として手に入れていく変貌ぶりに、観客は、一緒になって泣き、笑い、そうしてクライマックスに拍手喝采することになる。日本に生まれてよかったと思わせる超娯楽作の誕生だ。炭坑住宅という村社会の因襲にも縛られず、都会への憧れにも流されず、あらゆる困難を克服して輝く主人公=紀美子を蒼井優がたおやかな存在感としたたかな演技力で生き抜いて見せてくれる。その驚異的な美しさたるや“映画のミューズ”と呼ぶしかない素晴らしさである。時代背景を忠実に再現した、撮影、美術・セットの力も特筆もので、加えて、富司純子、豊川悦司、しずちゃんら演技陣がしっかり脇を固めている。「フラガール」を観ずに映画は語れないと断言してしまうのだ。 |
(ベストテン第2位、主演女優賞) |
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「ヨコハマメリー」(92分) | |
その映画は2006年の日本映画界を震撼させた。中村高寛という若干30歳の青年があくなき執念で追ったヨコハマの“影の顔”。歴史の表層では決して語られることのないハマの“真実”が容赦なく暴かれていく。メリーさんと呼ばれた白塗りの娼婦を知る人々の様々な証言。われわれハマに生きる人間にとって、メリーさんは自己の差別意識を試されるリトマス試験紙だった。メリーさんを母親のように慕ったゲイのシャンソン歌手・永登元次郎とのつながり。メリーさんは老い、元次郎さんは余命いくばくもない不治の病に冒されていく。1995年、メリーさんの姿がハマから消えた。元次郎さんはメリーさんを探す旅に出る。ハマの暗い裏面史を語りながら、その底に浮かび上ってくるのは、それでも生きることは素晴らしい、人生は生きるに値するという、人間信頼の熱い熱い炎である。正に、限りない“人間賛歌”が奏でられるのだ。この映画のラストシーンの美しさを何に例えればいいのだろう。そして、ボクらはメリーさんの新しい顔を見る。あのラストシーンをボクらは生涯忘れないだろう。“そして、人生は続く”のだ。 |
(新人監督賞、審査員特別賞) 監督・構成=中村高寛 撮影=中澤健介、山本直史 写真=森日出夫 出演=永登元次郎、五大路子、杉山義法、清水節子、山崎洋子、団鬼六 |
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「ゆれる」(119分) | |
2006年度の日本映画界に衝撃を走らせた西川美和監督渾身の一作である。青く深い渓谷の吊り橋からひとりの女が転落死する。その場に居合わせた兄(香川照之)は殺人容疑で逮捕され、目撃証人として弟(オダギリジョー)は法廷の場に立つ。はたして事件か事故か。ふたりの関与は。裁判を通じて、信じあえていたはずだった兄弟の、心に秘めた確執が明らかにされていくが…。謎めいて美しく、人間の暗部を描いて鋭い。「ゆれる」に結集した映画人たちのこの一作に込めた思いの深さ、語り口に見られる技術水準の高さ、演技陣のアンサンブルの絶妙さ。すべてにおいて「映画の神」が与えた奇跡と呼ぶしかない、わずか119分の至福の旅。しかし、観終えて残るズシリと重い感銘は、西川美和脚本・監督が緻密に仕組んだ大いなる「映画の罠」でもある。わたしたち観客は正に“ゆれる”しかない。こんなすごい映画を生み出してしまった西川美和こそ謎そのものだが、人間存在の不可思議さに一条の希望の光を差しのべてくれるラストシーンに、映画ファン全員で拍手を送ろうではないか! |
(作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞) 監督・脚本=西川美和 撮影=高瀬比呂志 照明=小野晃 音楽=カリフラワーズ 出演=オダギリ ジョー、香川照之、伊武雅刀、新井浩文、真木よう子、木村祐一、蟹江敬三 |
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